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帰国準備

10月に入り、ドイツの滞在期間はあと二週間ほどとなった。
今回の本帰国を心から喜ぶことができない自分がいる。
当初予定した博士論文をまだ書き上げることができていないからだ。

ここにきて再び研究のリズムを取り戻してきていたなかで、環境が変化しリズムが崩れてしまうことが怖い。
調子を取り戻してきているのは、以前の日常が戻ってきていると感じることが大きいからだろう。
ワクチン接種率の上昇にともなって、6月から次第に規制解除がはじまり、ようやくかつてのような生活を取り戻したかに思えるからだ。

かつてのように、人との関わりを持てることのありがたさを身に沁みて感じる。
ロックダウンのあった一年は、研究生活の中でも一番苦しく自信を全て失わせる期間になった。
それまでにあった、大学での交流もなくなり、図書館へも入れなくなり、人との関わりがぷつんと途切れた。
頭では「自宅で集中して作業できるはずじゃないか」と考えていても、思考がどんどん停滞するようになってしまった。
人文学の研究テーマなんてそれぞれ独立しているので、籠もる時間も生産的でいいでははないか、と当初は思い込もうとしたものの、
一人で考えを深めなくてはならないからこそ、他者との関わりや意見交換が有意義であったのだと、改めて感じさせられた。
もちろん、パンデミックがなくても書き上げられていた保証はないけれど、一人で博論を書き上げなくてはいけない、というプレッシャーが常にかかっていて、心情としてとにかくきつかった。
研究が進まないことがストレスになり、夜眠るまで博論のことで頭がいっぱいになって早朝に目が覚める日も珍しくなかった。これまでどんなにバッシングを受けても研究を楽しいと感じていたのに、博士課程に進んだ自分を初めて呪った。
それらの呪いも、再び人と顔を合わせられるように少しずつ解けていった。そして、混乱と増大するプレッシャーを自分の頭の中だけで反芻するのではなく、人に話せるようになったことで、肩の荷が下り目の前のことだけを考えようと少しずつ思えるようになってきた。

帰国する日を決めないと考えるようになり、自分がそれまでに博論を仕上げられないことは薄々理解していたので、そのことがまた悲しかった。
博論を無事に書き上げて、みんなではしゃぎたかった。
帰国と修了の報告ができたらよかったな。
パンデミックによって何もかもが変わってしまった。

叶わなかった残念なことを挙げればきりがなくなってしまうしもったいないので、改めて滞在を振り返ると、来てよかったなという気持ちが圧倒的だ。
身の丈に合わず、不可能にしか思えなかった(し、実際に今も不可能を感じている)、ドイツの博士課程に行くという勇気ある決断を下した、かつての自分に感謝したい。
自分の矮小さは相変わらず痛感するけれど、文学の新たな広大な世界に飛び込むことができて、自分の目が開けたことに安堵すらしている。

自分が移動すること、そこで暮らすことで、かつての自分がどんどん遠くなり、別人に思えてくる。
今回の留学では、これまで見えなかったドイツやヨーロッパについての感じ方も変化して、そう感じることが多かった。
こうした経験も、何かしら博士論文に反映するべく、あと少し頑張りたい。

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